【今月の(仏教)書】死にゆく人の身体と心に起こること〜大切な人を看取るためのヒント[著]玉置妙憂

【今月の(仏教)書】住職が月1回、棚からひとつかみ、比較的読みやすく、比較的安価で、地方の本屋でも手に入りやすいような「(仏教?)書」を紹介します。住職読了後は、「ぎんなん文庫」へ寄贈しておりますので、どうぞご利用ください。

死にゆく人の身体と心に起こること〜大切な人を看取るためのヒント

(2020年4月24日 第1刷発行/発行所:株式会社宝島社/定価830円+税)

[著]玉置妙憂(たまおき みょうゆう)
看護師。僧侶。スピリチュアルケア師。東京都中野区生まれ。専修大学法学部卒業。国立病院機構東京病院の看護学校で学び、看護師、看護教員の免許を取得。のちに高野山真言宗にて修行をつみ僧侶となる。現役の看護師として勤めるかたわら、非営利一般社団法人「大慈学苑」を設立し、患者や家族、医療と介護に関わる多くの人々の心を穏やかにするべく、院外でスピリチュアルケアに力を注いでいる。著書に「まずは、あなたのコップを満たしましょう」、「死にゆく人の心に寄りそう」、「困ったら、やめる。迷ったら、離れる。」などがある。

著書も多く、テレビや雑誌、新聞など各メディアでも頻繁に活動が紹介されている玉置妙憂さんの新刊。本書は、死にゆく人に寄り添う人のための、(10人いれば10人の死に方があることを大前提とした)ヒントを提示する本になっている。

2019年総務省統計局の発表によると、日本の高齢者(65歳以上)の人口が3588万人と過去最多、総人口に占める割合は28.4%となり、過去最高となった。私自身は、第2次ベビーブーム期(1971年~1974年)に生まれた世代となるが、私の世代が65歳以上となる2040年には、総人口に占める高齢者人口の割合は35.3%になると見込まれている。

長寿社会の実現は、まことに喜ばしいことだが、その反面、それは死にゆく人が増えることを意味する。今後、死にゆく人は増え続け、私の世代が65歳以上となる2040年にはピークに達し、年間160万人以上が死亡する見込みだ。このような統計から、日本は、今の高齢化社会から、多死社会に突入する(した?)と言われている。多死社会への突入を受け、当然、1人1人の死は今までのように医療や福祉だけでは対応し切れず、紋切り型に効率化、合理化が進められていく流れが出てくる。現在のAIの技術の進歩は目覚しく、近い将来、医療用ロボットに看取られるという話も現実味を帯びてきている。

年間の死亡者が160万人になろうが、200万人になろうが、1人の命x160万、1人の命x200万に変わりはない。どんなに多くなろうとも、1人の命は、1人の命である。死にゆく人にも死にゆく人の想いがあり、家族にもそれぞれの想いがある。そこは紋切り型に効率化して処理できるものではないし、多死社会の中であっても決して譲れない部分だ。その何にも替え難いそれぞれの想いが「x160万」だと考えるとちょっと想像できない数になるから大変だ。

では、この多死社会に生きる私たちはどのように生きて、どのように死んだら良いのだろう。そんなこと考えたって絶対に計画通りにいかないのが、「死」ではあるけれども、だからと言って自分には関係ないとは言えない時代。ちょっと考えてみましょうというのが本書である。一度ちゃんと考えたあとは、忘れてしまってもいいかもしれない。とにかく一度考えてみる。第4章では、寄せられた様々な看取りに関する質問に、玉置妙憂さんが一問一答、丁寧に答えられていて、ここだけでも明日からの生き方が変わるかもしれない。

人は生まれて死するならいとは
智者も愚者も上下一同に知りて候へば
始めてなげくべしをどろくべしとわをぼへぬよし
我も存じ
人にもをしへ候へども
時にあたりてゆめかまぼろしか
いまだわきまへがたく候。

日蓮聖人御遺文「上野殿後家尼御前御書」/弘安三年(1280年 聖寿五十九歳)